陰の法学

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日本の選挙制度とHUNTER×HUNTERの会長選挙

 

前置き

 HUNTER×HUNTERのコミックス37巻が発売されることが決定した。今までも軍儀の販売や、冨樫先生のTwitter開設などでHUNTER×HUNTER界隈は盛り上がっていたように思われるが、今回の件で更に加熱したと言えるだろう。

 

 僕も、数日前からHUNTER×HUNTERを読み直している。といっても、最近やってるややこしい王位継承編ではなく、会長選挙編をだ。

 

 なぜ数ある編の中でそれを選んだかというと、まずパリストンが個人的に大好きだからである。彼のようなトリックスター的なキャラは自身の限界を見せないことが多く、もし本気を出したら...というような可能性を考えさせてくれる。

 

 もう1つは、授業で選挙制度について学んだからだ。会長選挙編を読み直すことで、それについての理解が深まるのではないかという安直な考えである。

 

 ということで、まずは日本の選挙の基本原則と、HUNTER×HUNTERの会長選挙のルールを説明し、次に双方を比べてみる。

 

日本の選挙の基本原則

 日本の選挙の基本原則は、次の5つである。

 

普通選挙

②平等選挙

③秘密選挙

④自由選挙

⑤直接選挙

普通選挙

 日本が普通選挙を採用していることは憲法15条3項からも明らかである。

 

 憲法15条3項「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。」

 

 2016年6月から18歳以上の人も投票が可能となったが、その時の「成年者」はまだ20歳のことを示していたのだから、当時は矛盾していたのではないかと疑問に思った(現在は18歳以上を成人としているから問題ないが)。

 

 それは置いといて、条文をすごく噛み砕いていうと、成年者(18歳以上)の国民であれば原則的に誰でも投票が可能ということである。

 

平等選挙

 憲法14条「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」

 

 憲法44条「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。」

 

 有権者が持つ選挙権はみな平等であることを示している。学生の僕も、あの冨樫先生の選挙権と同じ価値の選挙権を持っている。そう考えると、選挙権がより貴重なものだと思える。

 

 一人一票の原則というものがあるが、それはこのことも指している。一部の有権者が複数の投票権をもつなんてことがあってはならない。皆平等であるのだ。

 

秘密選挙

 憲法15条4項「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。」

 

 どの候補者に投票したのかを第三者に知らせてはならないことを示している。公正さという観点からも、これも保障されなければならないと思う。

 

自由選挙

 憲法上明記されている訳ではないが、投票するかどうかは自由である。有権者は棄権し、あえて投票しないことも可能である。

 

 また、憲法21条1項「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」により、選挙活動も政党形成も自由である。

 

直接選挙

 憲法93条2項「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」

 

 有権者が候補者(議員や長)を直接選ぶことを指す。国会議員についての直接選挙は特に記載されておらず、解釈上の争いがある。

 

HUNTER×HUNTERの会長選挙のルール

 ジンが作成した会長選挙のルールは4つ(5つ目は不採用であるため除く)。

 

①ハンター全員が候補者かつ投票者である事。

②始めの選挙で最高得票数が全ハンター協会員の過半数を得なかった場合上位16名で再度選挙を行い、それでも決まらない場合順次人数を半分とする

投票率が95%未満の場合、その選挙のみやり直す事。

④投票者は必ず名前を記入する事。無記名は無効とする。

 

 これを踏まえて、会長選挙の制度を日本の選挙制度に照らし合わせてみる。

 

普通選挙

 ①によると、会長選挙において、ハンターは全員投票可能である。特に、投票のために必要な財産だとか功績だとかが設けられていないことから、この会長選挙も普通選挙が保障されているといえるだろう。

 

平等選挙

 会長選挙においても、一人一票の原則は確立していると思われる。特定のキャラが他のキャラよりも価値の高い投票権をもつだとか、あるいは複数の投票権をもつといった描写やルールは無かった。

 

 2点と評価されたモブでも、ヒソカやイルミのと同じ価値の投票権をもっているのだろう。よって、会長選挙では平等選挙が保障されているといえる。

 

秘密選挙

 ④によると、投票者は必ず名前を記入しなければならない。このことから、第三者は誰が誰に投票したかを見ることができる。よって、会長選挙では秘密選挙ではなく公開投票制が採用されていると思われる。

 

 しかし、描写からして、実際に誰が誰に投票をしたのかを把握していたは最高責任者のビーンズのみだと考えられる。最高責任者は何か特別な感じがするから、三者にあたらないのか?

 

 僕は、最高責任者も第三者にあたると考えている。例えば、その最高責任者が独裁国のトップだったらどうだろうか。秘密選挙が保障する「選択に関する責任の回避」を、投票者は免れることができるだろうか。

 

 また、事故などで投票用紙が外部の目に触れられてしまう可能性もある。その場合は、もはや公開投票制となんら変わらなくなる。そのため、会長選挙では日本の選挙制度と違い公開投票制が採用されていると考える。

自由選挙

 全員が投票者であるものの、投票は自由(③の投票率95%の条件があるが)。しかし同時に、全員が候補者。更に、立候補は(実質)強制である。

 

 判例(いわゆる三井美唄炭鉱労組事件)は、立候補の自由は選挙権の自由な行使と表裏の関係にあるとしている。このことから、立候補の自由が保障されてからこそ自由選挙が保障されているといえるのではないか。

 

 よって、会長選挙において自由選挙は保障されていないといえる。

 

直接選挙

 有権者が会長を直接選ぶことができることから、直接選挙は保障されているといえる。 

まとめ

 HUNTER×HUNTERの会長選挙は、普通選挙と平等選挙、直接選挙の採用という点では日本の選挙制度と共通しているが、秘密選挙や自由選挙を採用していないという点では日本のと異なることがわかった。